欧州アートログ

ヨーロッパにおける企画展、ギャラリー、アートフェア等のログを淡々と書き記します。

Art Basel & Masterpiece 初夏のオンラインフェア [Log 25]

オンラインで開催されたArt BaselとMasterpieceを訪問しました。その模様を淡々と書き記します。

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画像引用:Masterpiece Onlineトップページより

 

記事内容に入る前に、先月来私事でバタバタしておりブログを放置していたら、気が付くと前回投稿より約1か月が経過してしまいました。夏の間は暫く更新頻度を落としてお送りして参ります。恐縮ながら、引き続きお付き合いいただければ幸いです。

 

記事のポイント

  • Art Baselではオンラインへの関心が低下?
  • これまでよりメガ以外に注目する動きも
  • 中小はアーティスト紹介を通じたマーケティングか

 

これまでのオンラインフェアについて

当ブログでは、コロナ禍により突如トレンド化したアートフェアのオンライン化について注目して参りました。

 

最初は、Art Basel香港が突如開催中止されたことに伴う、3月末のArt Basel Online。世界的フェアとしては初のオンライン開催という中、約25万ビューとたたき出し、主催者は「新たな途を切り開いた」とコメントしていると紹介しました。

他方、当ブログの感想として、メガギャラリーには有利だが中小ギャラリーにとってはどうであろうか、という見方を示しました。

 

次いでご紹介したのは、5月頭のFrieze NYの代替として開催されたオンラインフェア。3月のArt Baselよりも準備時間があったこちらでは、関連するオンラインイベントが充実していました。

[7月15日追記] Friezeは、本年10月のロンドン開催についても中止を発表しました。

 

2つのオンラインフェアの意義と開催実績

今回注目する2つのフェアは、例年であれば初夏の欧州を彩る2大フェアとも言えます。

 

Art Baselは言わずと知れた世界一の現代アートフェア。例年スイスのバーゼルで開催されます。本年も、当初予定であれば6月18~22日の一般公開予定でした。しかしコロナ禍で9月17~20日に延期。そして9月開催さえも6月頭に中止が発表されました。

ちなみに、本フェアの開催主体であるMCH groupは、4月末から開催予定であった時計の展示会であるBaselworldの開催中止の際に補償交渉でもめたらしく、ロレックス、シャネル、パテックフィリップ等の大所から三行半を突き付けられたとのこと。今後の経営が危ぶまれる中、先月末には世界のメディア王マードック氏がステップ・インするという噂が出ています。

そのような状況で、6月17~26日(17~19日はプレビュー)に開催されたフェアには、世界35か国から約280のギャラリーが参加しました。期間中のアクセス数は約23万ビュー、作品点数約4,000点、作品総額約7億4,000万ドルでした*1

今回のフェアの前には、主催者のウェブサイトでHow to buy art olineなる記事を公開しメール広報する等、オンラインフェアの定着に力を入れていました。この中では、従来は個別の対話で公開されていたような情報を訪問者全員が見られるようになるのは、「プロセスの民主化」であるといったことまで書かれています。しかし、良くないなぁと個人的に思うのは、前回3月のオンラインフェアでは開始後30分で75万ドルの作品が売れたました!ガゴシアンから、という宣言が冒頭部分に書かれていることです。メガギャラリーには優位だけど…という感想を加速させます。

仕組み面では、検索フィルター、お気に入りのシェア機能等が前回より充実したほか、関連のバーチャル対話イベントが数多く開催され、オンラインフェアに欠けている「横のつながり」を少し意識した工夫がなされていました。

 

Masterpieceは、毎年ロンドンで開催されるアートフェアで、出展者が現代アートに限らずアンティークやインテリア等幅広い点でTEFAFに近い性格を持っています。比較的、世界のアート関係者が注目する都市ロンドンで開催される地域フェアという感じでしょうか。毎年日本から参加するギャラリーもありますので、必ずしも出展者が地理的に限られているわけではありません。2019年の様子は、こちらからご覧いただけます。

6月22~28日に開催されたオンラインフェアには、136の出展者が参加しました*2。こちらのフェアは、Art BaselやFriezeといった世界規模のフェアとは異なる仕組みになっていました。具体的には、各作品・取引のページに進むと、フェア主催者のサイトから最大手のオンラインアート販売会社の一つであるArtsyのページに飛ぶ仕組みが採用されており、実際の取引というポイントは主催者でサポートされないという形となっていました。

他方、関連イベントはMasterpieceのウェブ上で閲覧可能となっており、システム投資を抑えながらフェアの盛り上がりを再現する面白い取組みだと思い、紹介させて頂きました。

なお、このように常設のオンライン販売へ推移する仕組みであるためか、期間後の本記事執筆日(7月2日)においても出展作品へのアクセス・Artsy上での購入が可能となっています。そのためか、「期間中のアクセス数」のようなものは公表されていないように見受けられます。

 

なお、両フェアにおいて、当ブログでこれまでご紹介してきたアーティストたちの作品を多く見かけました。各ギャラリーの展示をご紹介しているので当然といえば当然ですが、各記事を書く中で勉強しているので、個人的に見ていて嬉しくなりますね。

 

感想は?

まず気になったのは、アクセス数です。Art Baselについて、前回3月は8日間の開催で25万ビュー、今回は10日間の開催で約23万ビューと期間が長いわりにアクセスが減少しています。この点、美術手帖の記事は、「やや数字は落ちたものの、短いスパンでの開催もあってか、その勢いは維持された」としています。

しかし、出展者数が前回235より増加し、作品点数が前回約2,000点の倍、作品総額に至っては前回約2億7,000万ドルの2.7倍である今回のフェアへのアクセスが減少しているというのは、オンラインフェアへの関心が低下しているのではないか思えます。

今回、面白いなと思ったのは、ロックダウンが解除された大陸欧州のギャラリー等が、オンラインフェアに合わせて自分のギャラリーでも物理的に展示を行う等の取組みが見受けられたところです。合理性を考えると限られたスペース(物理的空間もオンライン空間も)では出来るだけ多様な作品を晒したほうがよさそうであるところ、こういった動きが出てきたということは、やはり実物を見たいという要請が強いのであろうと推測されます。

当ブログでは、中小ギャラリーが素通りされる懸念を示してきました。この点、どんな作品が売れたかという記事では高額商品が注目されやすいので引き続きメガ中心になってしまっていますが、どんな出展者が面白いかという記事ではメガ以外に注目する動きが見受けられました。Frieze Viewing Roomでもおススメの出展者を紹介するという試みがなされていましたが、こうした動きがコロナ禍で大きな影響を受けている中小ギャラリーへの支援になることを願ってやみません。

最近、中小のギャラリーではインスタ投稿、メルマガ等の形でアーティストの詳しい紹介を行う事例を多く見かけます。メガに比べるとどうしても知名度が落ち、フェアの場で作品を物理的に見せるということも難しい中、先ずはアーティストに興味を持ってもらうというマーケティングが進んでいるように思えます。

アートフェアは、ギャラリー・ディーラー収入の45%を占める重要な舞台です。それがどういう方向に向かうのか、引き続き秋のシーズンに向けて注視していきたいと思います。

ではまた。

*1:https://bijutsutecho.com/magazine/news/market/22245

*2:公式の数字が見当たらなかったので、Masterpieceのウェブ上で出展者を数えました。なおArtsyの当該フェアページ上では138とされています。