Art Basel Online Viewing Rooms / 物理的アートフェアとの違いは? [Log9]
ウェブサイト上で開催されたArt Basel Online Viewing Roomsを訪問しました。その模様を淡々と書き記します。
※ 本来は実地訪問したフェアについて記事にしていきたいところですが、諸般の情勢に伴い、本記事はウェブ上の訪問に関する内容となります。
Art Basel Online Viewing Rooms より。Galerie Peter Kilchmannが展示したDagoberto Rodriguez《Ceiba Dos》2018
記事のポイント
- Art Basel Hong Kong 2020開催中止を受けて初開催
- 約25万ビューを記録。主催側は肯定的コメント
- やはりフェアの雰囲気とは異なる
Online Viewing Roomsとは?
現代アートフェアとしては最も重要なArt Basel。本年は、その設立50周年を記念した一連の催しがHong Kong、Basel及びMiami Beachで開催予定でした。
しかし、新型コロナウイルスの大流行を受け、3月17日~21日に開催予定であったArt Basel Hong Kong 2020の開催中止が2月頭に決定。代替策として、2月後半に開設が発表されたのがOnline Viewing Roomsです。3月18日~20日にVIPプレビュー、20日~25日に一般公開がなされました。
なお、6月開催予定だったArt Baselについても、今週、9月17日~20日(15・16日プレビュー)への延期が発表されました。
[2020年6月6日追記] 9月開催も中止し、本年中の開催を見送るとの発表がなされました。
主催者の総括によると、235の出展者が、750米ドル~300万米ドルにわたる2,000点以上の作品を展示。作品総額約2億7,000万米ドルは「一つのオンラインポータルで提示された作品群としては、史上最高額」。期間中、約25万のビューを訪問を得たそうです。出展者の「Art Baselは、これからの新たな途を切り開いた」とのコメントが、大見出しで紹介されています。
また、美術手帖の記事によると、主催者は「多くの中小規模のギャラリーにとって、私たちの世界の新しい、潜在的なクライアントとつながる機会を提供した」とコメントしたそうです。果たして。
どんな仕組みだった?
展示内容については、実際に展示物を総覧したわけではない(この点後述)ので、本記事ではテーマとしません。上記美術手帖の記事、主催者サイトの「私のお気に入り」の記事等が参考になります。
むしろ、初の試みということなので、実際にウェブサイトを訪問された方には蛇足ながらも、仕組みについて触れたいと思います。
Viewing Roomsに行くと、まずギャラリーの一覧が出てきます。フェアブースのような大小はなく、各出展者が平等に扱われていました。各ギャラリーに行くと写真のように「ベンチ」が現れ、平面作品の場合、クリックにより壁の作品が移り変わるという仕組みとなっていました。オブジェクトの場合は白い台座の上に置かれている画像が現れ、もっと大作の場合は全然違う場所で撮影された画像が出てくるという感じです。
各ギャラリー、最大10点の作品が「展示」されていました。
作品をクリックすると、詳細情報が表示されました。さらに、通常のフェアではあまり表示されていない価格又は価格帯が記載されており、フェアでは一々質問するのが野暮ったく感じられるこれらの情報を得やすいのは、便利でした。
作品を直接アーティスト名やメディウムにより検索できるようにもなっており、要はArtsy等のオンラインプラットフォームとあまり変わらない仕組みとなっていました。
感想は?
香港でのフェアの参加予定者は無料で参加できた今回のOnline Viewing Rooms。当然極東からの出展者が多く、欧州でのフェアとは違う顔ぶれや作品のテイストは、個人的に新鮮でした。
仕組み上、メガギャラリー、既に出展されることを知っている作品・アーティストにとっては物理的なフェアより「集客」(2019年のArt Basel Hong Kongの来場者数約9万人に対しての約25万人)が図れるものだったと思います。メガギャラリーは、従前よりアートフェアに合わせたオンラインビューイングを自社サイトで実施しているところが多く、今回も自社サイトへの導入口としてArt Baselのサイトが使われているようにも見受けられました。
他方、中小の出展者にとっては、歩き回っていると自動的に視界に入る物理的なフェアとは異なり、積極的に訪問者がクリックしないと目に触れないという厳しさがあったのではないでしょうか。この点、VIPプレビュー後の報道(Artnet News)では、「いつもJPEGで商売してるから普段とそんなに変わらんよ」というガゴシアンのコメントやプレビュー期間で既になされた販売結果とは対照的に、中小のギャラリーからのレスポンスは静かであったとされています。
今回の試みは、困難な時期における継続性の確保や情報通信技術の活用といった業界の試みとして評価できると思います。その上で、物理的一覧性による新たな出会い、どの作品に人が集まっているか、出展者や他の来場者との会話といった、オンラインが代替出来ないフェアの持つ魅力を再認識するきっかけともなりました。
ではまた。