欧州アートログ

ヨーロッパにおける企画展、ギャラリー、アートフェア等のログを淡々と書き記します。

2020年 世界のアート市場は約22%減 / The Art Market 2020 [Log40]

本日、Art Basel及びUPSから、「The Art Market 2021」が発表されました。その概要を淡々と書き記します。

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記事のポイント

  • 世界全体の市場規模は昨年に続く縮小
  • 地域別では中国の相対的比率が引き続き増加
  • 市場の地殻変動なるか

これまでの経緯

約一年前に発表された2020年版では、2019年のアート市場が5%減という結果が示されていました。

既に減速傾向にあったアート市場は、コロナ禍により大打撃を受けました。昨年9月に発表された臨時のレポートでは、その状況が報告されています。2020年前期のギャラリー売上は約36%減、ギャラリーの1/3はスタッフを解雇等の厳しいものです。

そのような経緯を経ての、今回の年次レポート。市場は、どのように動いたのでしょうか。

 

世界全体のアート市場は?

いち早く結果をお伝えしようと思ったところ、今回も美術手帖さんの手が早い!しかし、最近始めた会員制度で、当該記事は有料とされています。

本ブログでは、当然、無料で概要を記載して参ります。

 

2020年の世界全体のアート市場規模は、約501億ドルと前年より約22%減少しました。他方、本ブログでもコロナ禍中でオンライン展示(Online Viewing Rooms等)を散々取り上げましたが、オンラインでの売上げは倍増し、史上最大規模の約124億ドルとなりました。ついに、実店舗における売上げを超えました

他方、ギャラリー及びアートディーラの収入の約45%を構成していた(2019年)アートフェアは、2020年に計画されていた365のアートフェアのうち半数以上の約61%がコロナ禍でキャンセル。その結果、収入構成比は13%に激減しました。OVRsによる売上げは、約9%です。

ちなみに、キャンセルが約61%というのは、肌感覚的には少ないなという印象です。地域別でみると、北米で約66%、欧州で約61%、アジアで約58%がキャンセルだそうです。意外とやっているところではやっていたのだな。

 

地域ごとのアート市場規模は?

コロナ禍による売上減の中でも、アートマーケットのハブである米英中のプレゼンスは変わらず、昨年同様約82%となりました。

米国は世界シェアの約42%(前年約44%)、英国は約20%(前年同)、中国は約20%(前年約18%)となっています。

この3極の売上げは、対前年比でそれぞれ、約24%、約22%、約12%の減少となっています。ちなみに、米英については、それでも2009年の所謂リーマンショック不況時よりマシな状況のようです。

 

セグメントごとの市場規模は?

ギャラリー及びディーラーの売上げは、約20%の減とされています。昨年の2%増からすると大きな減少ですが、9月レポートの数字よりは良い結果です。しかし、これはコスト削減に拠るところが大きそうで、数字だけ見て「良い結果」と言うのは、大いに語弊があるものと推察されます。

今後の展望について、約58%が2021年は売上増が見込めると回答しています。発射台が下がっているので市場規模が成長傾向にあるとは言えませんが、「景気は気から」が正しいとすれば、回復基調にある言えるでしょう。

 

昨年も縮小傾向にあったオークション市場は、まちまちです。オークションハウスと言ってイメージするパブリックセールの縮小傾向は加速化(▲30%)する一方、オンラインセールスは急増しています。

オークションについて、地域ごとの規模では、ついに中国市場が米国を抜き世界一のマーケットとなりました。中米英の順に、市場占有率約36%、29%、16%です。

 

感想は?

9月レポートでも触れられていたミレ二アル世代の存在感は、増大しています。支出規模が大きくこの世代のコレクターの約30%が年間100万ドル以上を費やしています。他方のベビーブーム世代でこの規模の購入を行ったのは約17%です。

コレクターの約57%はギャラリーや物理会場での購入を好むと回答しており、オンラインが良いとの回答が29%、電話又はメールが14%という結果を見るに、2020年のオンライン市場の隆盛あれど、物理の力は未だ衰えずと言えるでしょう。一点ものの作品ですから、そりゃ一回は観たいのが人情ですよね。

オンラインでの売上げについて、オンラインやアートのオンラインマーケット大手Artsyでのフェアで寄せられた問合せのうち約90%が価格を明示していた作品であったとの結果を見るに、透明性向上が市場へのアクセシビリティを高めることが明白になったと言えます。

 

昨年の市場がコロナ禍による特殊なものだったか否かは、将来的に振り返った際に判断されることですが、

  • 地理的中心軸の移動の加速
  • コレクターの世代交代とそれに伴う選好の変化
  • アートフェアの在り方の見直し

の3点については、2020年が一つの峠だったと振り返るようになると思います。

 

なお、今年のレポート、中扉絵に使用されたアーティストの一人として、花澤武夫さんの名前が挙げられております。

 

ではまた。