欧州アートログ

ヨーロッパにおける企画展、ギャラリー、アートフェア等のログを淡々と書き記します。

ジャン・デュビュッフェ:Brutal Beauty @ ロンドン・Barbican Centre Art Gallery [Log 44]

1980年代初頭ロンドン・シティの中心部に誕生したブルータリスト建築の至宝の一つであり、かつ、欧州最大規模の芸術コンプレックスことBarbican Centre。そのArt Galleryで開催されていた「Jean Dubuffet: Brutal Beauty」に行ってきました。その模様を淡々と書き記します。

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ジャン・デュブッフェさんについて

ジャン・デュブッフェさん(1901~1985)は、20世紀中後半のフランスを代表するアーティストの一人です。従来の伝統的な表現方法を超えた作品を制作・他「アーティスト」の作品を積極的に拡散した方です。

形態を描写する従前のアートを超越し、極度に抽象化された表現を行う芸術活動である「アンフォルメル」の先駆けとみなされています。

 

この結果だけ見るとさぞや美術史、表現哲学を悩みぬいてたどり着いたに違いない!と思いきや、ご本人は、芸術活動をやりたいけど踏ん切り付かない、そんな前半生を過ごしています。

ワイン商のご家庭に生まれ、法律か会計かを勉強しろという父の下、法律を学ぶということでパリに出て美術学校に行くも、半年でドロップアウトした青年時代。

その後、ワイン商になっては、辞めて芸術活動をして、やっぱりワイン商に戻ったり。

第二次世界大戦中にナチス・ドイツ傀儡のヴィシー政権側の前線部隊へワインを供給して財をなし、1942年、41歳でやっと芸術活動の一本道へと歩み始めます。

 

そんな彼の作品の特徴は、激情でメディウムをかき回したような、野武士のような表情にあります。

 

どんな作品があった?

砂、アスファルト、小石、蝶の羽、溶岩等、伝統的なアートが少なくとも表舞台では用いてこなかった素材が、デュビュッフェにより引っ搔き回されたり、刻んで貼り付けられたりしていました。

 

この半世紀で初めて英国にて開催される大規模な回顧展は、彼が制作を本格的に始めた頃から最晩年までの作品を、時系列に沿いながら、テーマごとに、テンポよく展示していました。

 

この点、百聞は一見に如かず、キュレーターが解説して回る動画をアップしてくれているのでご覧ください。

www.youtube.com

 

また、彼が1945年に名付け・蒐集した「アール・ブリュット」の作品、正規の西洋美術教育を受けていない精神障碍者等の作品も展示されていました。

 

感想は?

大殺戮が行われた第二次世界大戦が終わり、生きることの喜びと勢いが濁流のようであったであろう時期に、荒々しくもストレートでガツンとくるアンフォルメルが盛んになったのは、きっと必然だったのだと思います。

 

戦争と疫病を同列に論じて良いかという点は置いておくとして、コロナ禍に苛まれている世界の「その後」には、同様の感情が素材を爆発させたようなアートが勢いづくのかもしれません。

(私がログに書いている新型コロナウイルスの流行発生以降に制作された作品が、たまたまそういう系統なだけかも。)

 

そんなことを思いながら、

また、中年で華麗なキャリアチェンジを遂げたデュビュッフェさんに感心しながら、

まだ暫くは長い余韻を楽しめそうな、そんな良い企画展でした。

 

ちなみに、ロックダウンの制約が解けた中、人では結構なものでした。

 

ではまた。