欧州アートログ

ヨーロッパにおける企画展、ギャラリー、アートフェア等のログを淡々と書き記します。

野又穣 展 / Introductions: Minoru Nomata [Log 23]

White Cubeがオンラインで開催している「Introductions: Minoru Nomata」展を鑑賞しました。その模様を淡々と書き記します。

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White Cube online exhibition ページより

 

記事のポイント

  •  本ブログ初の日本人アーティスト記事
  •  想像の建築物・工作物を描く作家
  •  ギャラリーがギャラリーだけに今後要注目

 

事務連絡

まずは突然ですが事務連絡です。

先月半ばの記事で、英国のロックダウンが段階的に解除される見込みとなり6月1日からはギャラリーがオープンとの旨の飛ばし記事を投稿しました。

しかしながら、その後も英国での感染拡大が止まず、現時点最新の状況では、ギャラリーは6月15日以降事前にアポを入れた者に対してのみオープンとの見込みとなっています。美術館はもっと遅れて、本日発表によるとTateたち(テートブリテン、テートモダン等)は8月上旬にドアを開く予定とのこと。

このため、暫時オンライン鑑賞をベースとした投稿が続く見込みとなりました。このブログを3月に始めた当初は、ここまでの外生的要因を予見出来うるはずもありませんでした。他方で、ここまでオンラインでの色々な取組を紹介できるとも思っていませんでした。

 

野又穣さんについて

野又さん(1955~)は、東京は目黒の生まれ東京育ち。もちろん日本人です。現在は、女子美術大学で教鞭を執られているようです。不思議な空想世界にある建築物や工作物を描く作家さんです。

いわゆる高度経済成長の真っただ中で、都市計画や丹下健三さんの代々木競技場といった建築物に魅かれたそうです。東京芸大時代はイスラム精密パターンに、そして精密派(Precisionism)のチャールズ・シーラーに引き込まれたとされています。

ご本人のHPで作品を色々拝見することが出来ます.。個人的には、シュールレアリスムとジブリとSFとの間を行くような、各パーツは特異でないのに全体を見ると少しディストピア感のあるような作品が多いと感じます。

なお同HPの展示歴によれば、これまでは日本での展示が主で、本展はWhite Cubeにおける初の展示のようです。ちなみに、White Cubeはロンドンの現代アートギャラリーで、ロンドンの中でかなり素敵ギャラリーの地位を占めています。

 

どんな作品があった?

White Cubeのオンラインギャラリーページでの展示となります。メアドを入れるとサッと入れます。スクロールダウンすると全作品を一覧することが出来る1ページ仕様です。初期(1992~)の作品から、テーマを区切り、多くの作品が幅広く販売されていました。

初期、90年代半ば頃は娘さんが重病となり、自然に慰めを求めるが如く岩をモチーフにされていたとのこと。

同年代後半の作品群(上記画像の作品もその一つ)については、セザンヌの「自然を円筒、球、円錐によって扱い、全てを遠近法の中に入れ、物や平面の各側面が一つの中心点に向かって集中するように」という言葉が引用されています。

2000年以降は、専ら想像の建築物・工作物といった塩梅の作品になってきます。この頃になると、濃く何らかの含意を秘めながら描かれているなという印象を受けます。

そして、バベルシリーズには、明らかに屹立する国家や資本へのメッセージを読み取れます。

 

感想は?

正直に申し上げて、お名前は存じ上げませんでした。しかし、何処で見たのか作品たちは強烈に印象に残っていました。私が、建築とマグリットが好物だからかもしれません。

そんな野又さんと、新宿のお寺べにや無何有の建築家竹山聖さんとの対談が、京大建築学科の機関紙に掲載されています。こちらを拝読すると、フィリップKディック、エッシャー、工業化・高層化していく街の移り変わり、国家や資本といった屹立する存在が作る陰といった野又さんにしみ込んでいる要素を良く引き出しているなぁと感心します。

上で何らかの含意を秘め…と書きましたが、この点についてもご本人の言葉で説明されております。

 

この方の作品を見ながら、何故かふと、隈研吾さん辺りの本で読んだことを思い出しました。建築の垂直性。それにより人間が重力という圧倒的自然の力に勝利した一方で、構造という形に囚われてしまうようになった。一方で、人間という弱い存在が厳しい自然環境の中で生き延びるためには、外部から身を守る建築空間が必要であった。実際の建築物は、こういった内在的制約を受けています*1

穿った見方かもしれませんが、野又さんの作品は、身体の物理的拡張外皮である建築物・工作物をモチーフに、私たちと非物質的な様々との関係を描いているようにも思えます。コロナ禍、ステイホームといったタイミングが、無意識にそういう連想をひねり出したのかもしれません。

White Cubeという尖ったギャラリーがこのタイミングで取り上げた野又さん。要注目です。

ではまた。

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*1:都市化が進んだことによる建築物相互の影響を考慮した外在的制約もありますが。