欧州アートログ

ヨーロッパにおける企画展、ギャラリー、アートフェア等のログを淡々と書き記します。

Writing Beyond @Axel Vervoodt Kanaal / 具体美術協会作品を柱の一つとした展覧会 [Log31]

Axel Vervoodt Kanaalで開催されている「Writing Beyond」をオンラインで鑑賞しました。その模様を淡々と書き記します。

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Axel Vervoodt「Writing Beyond」映像より 

 

記事のポイント

  • "セレブ"に人気のデザイナー兼アートディーラー
  • 欧州における「ワビサビ」の妙手
  • 具体美術協会を柱とに哲学的雰囲気のある展示

Axel Vervoodtとは?

Axel Vervoodtは、人名であり、かつ、ギャラリー名でもあります。

Axel Vervoodtさん(1947~)は、ベルギー・アントワープの生まれ。お父さんは馬商だったそうです。彼は、世界的なインテリアデザイナーであり、かつ、アートギャラリー主でもあります。

インテリアデザイナーとしては、ロバート・デ・ニーロ、ビル・ゲイツ等を顧客に抱え、キム・カーダシアンとカニエ・ウェスト夫婦のご自宅をデザインしたことでも有名です。

アートギャラリー主としては、アントワープ郊外のKanaalと香港とにギャラリーを持ち、Freeze、TEFAF、Masterpieceといった本ブログでも紹介してきた第一線のアートフェアの常連となっています。

彼の美意識の根底は、思い切って言えば侘寂を翻訳した「ワビサビ」です。実際、法人としてのAxel Vervoodtからは「Wabi inspirations」という本を出版しています。本のタイトルは侘びですが、思想としては寂びに傾倒しているように思えます。下記の同氏にフォーカスしたビデオで「古いものはそのままで神聖」「21世紀の最も美しい現代抽象アートは、時間によって作られたものだ」と言っています。

東洋の、特に日本に傾倒した彼の美意識が、西海岸の"セレブ"の方々から指名買いであることは、何故かあまり知られていませんね。Axel Vervoodtさんは、侘寂を翻訳し、「ワビサビ」として欧米のモダンライフスタイルに溶け込ませた立役者と言えるでしょう。

ちなみに、彼の飼い犬の名前は「Inu」のようです。


どんな展示だった?

アントワープ郊外のKanaalで開催中の展覧会の作品を、Youtube動画で、一点一点解説してくれます。全部見ても30分くらいです。


本ギャラリーの日本傾倒具合は、冒頭の会場解説でもダダ漏れてきます。本展示が行われているスペースの名前は「Henro(遍路)」と「Ma-Ka」というそうです。Ma-Kaも日本語由来で大地と地球とを表すのだそうですが、該当する日本語が思い付きませんでした。

展示作品の柱の一つは、同ギャラリーが推している具体美術協会のアーティスト作品です。正延正俊さん、名坂有子さん、前川強さん、堀尾貞治さん及び白髪一雄さんの作品が登場します。

そして具体以外にも、韓国アーティストの作品や東洋思想の影響を受けた西欧作家の作品が展示されていました。

対する形で自動書記的な東西作家の作品を並べたり、具体が影響を受けたアバンギャルドの流れにのるドロッピング等の作品が登場します。面白いところでは、アボリジニの祭具も登場します。

いずれの作品も、「Writing Beyond」。つまり、文字情報で説明できない直観、パワー、精神を、感じるものとなっています。途中でAxelさんは、宇宙意思とのつながり的なコメントもしています。怪しい話ではなく、禅的な哲学・思想とご理解ください。

 

感想は?

Axel Vervoodtらしい、口数は少ないながら込められた圧は強い、日本人的には茶室に合わせられそうな作品を揃えた展示だと感じました。こうして、日本由来の哲学・思想・アートを翻訳して世界に広めてくれる方がベルギーにいらっしゃるのは、日本の先人が気づいた文化の厚みのお陰だと改めて沁み入ります。Axelさんはご高齢ですが、ご子息のBorisさんが後を継ぐべく既にメインに立ってらっしゃるので、同ギャラリーの活躍にこれからも期待が持てます。

 

今回の展示で個人的に一番感銘を受けたのは、ビデオ7本目のRoman Opalkaさん(1931~2011)の作品です。フランス生まれポーランド人の彼は、1965年から「1965/1-∞」という作品を制作し続けます。彼のワルシャワのスタジオのドアのサイズ(196 x 135cm)の黒いキャンバスに、1から始まって2,3,4,5,6,7…カウントアップしていく数字を白色で書いていくというもの。1968年にはキャンバスの色をグレーに変更。1972年以降は、キャンバスが1枚終わるごとに次のキャンバスの色を1%だけ白くし、最終的に7,777,777の時に真っ白になるということを意図していたようです。

最終的に、作品は5,607,249で途切れました。

このコンセプト、河原温さん(1932~2014)の「Today」や「I Got Up」に似ているなと思う一方、写経や座禅にも近いなと思いました。アーティストが限界を設けず、文字にならない精神性を表現した佳作だとグッときました。

 

ではまた。