欧州アートログ

ヨーロッパにおける企画展、ギャラリー、アートフェア等のログを淡々と書き記します。

ロンドン・テート・ブリテン(入場制限下の訪問記録)[Log28]

前回のナショナル・ギャラリーに続いて、テート・ブリテンを訪問しました。その模様を淡々と書き記します。

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記事のポイント

  • コロナ下で、厳密な時間予約制による入場管理
  • 予約段階で、鑑賞する年代を選択
  • 空いていて、じっくり鑑賞するにはおススメ

 

そもそもテートって?

前回の投稿では、東京・国立西洋美術館における企画展に便乗してナショナル・ギャラリーへ訪問した記録を書き記しました。今回は、テート・ブリテンの訪問記録です。ロンドン観光案内ではテート・モダンが良く推されていますが、こちらのテートもおススメです。

 

そもそもテートは、英国の美術館ネットワーク・運営団体の名称で、ロイヤルワラント(王室御用達)のついている砂糖会社(Tate&LYLE。このブランド名でスーパーでも売っている)の経営者Henry Tateさんに由来してます。ちなみに、当該会社は製糖業とブランド使用権を米国企業に売ってしまっており、今はタピオカや飲食物の原材料(甘味料等)の製造会社となっているようです。

1889年にヘンリー氏が当時のビクトリア絵画65点と美術館建設費を政府に寄付し、1897年監獄(Millbank Prison)跡にThe National Gallery of British Artが開館します。1954年までナショナル・ギャラリーの一部であったこの施設が現在の「テート・ブリテン」(1932~2000年の間は、「テート・ギャラリー」)の元です。

20世紀中頃、英国美術とともに国際的な現代美術も展示するようになったテートは、次第に独自の収入源も確立し、独立組織となります。Wikipediaによると大きな収入をもただした1979年の拡張には、日本の銀行がお金を出しているとのこと。

 

その後、テートは拡張路線に。1988年にリバプールに「テート・リバプール」を、1993年にはコーンウォール(ブリテン島の左下の尖った辺り)のSt Ivesに「テート・セントアイブス」を開設。St Ivesでは同地で活動したヘップワースの「Barbara Hepworth Museum and Sculpture Garden」も運営しています。そして、極めつけが「テート・ギャラリー」の「英国美術」と「現代美術」とを分割するために2000年に開設された「テート・モダン」。この時に、大元の施設も「テート・ブリテン」に改称されました。

 

というわけで、現在英国にはテートと名がつく美術館が4つあります。今回は、そのうちの1つ、英国美術に特化した「テート・ブリテン」の訪問記録となります。

 

コロナ対策の状況&どんな作品があった?

先日のナショナル・ギャラリー同様、時間指定(15分刻み)の事前予約制が採られています。こちらもネットでサクッと予約できる仕組みです。ナショナル・ギャラリーに比べると、かなりスロットが空いています。

ナショナル・ギャラリーとの違いは、先方が入館後にルートを選択するのに対し、こちらは予約時にルートを選択します。選択肢は、「British Art 1540-1890」、「British Art 1930-」及び「Aubrey Beardsley」。テート・ブリテンと言えば「オフィーリア」が有名(どうしても、びじゅチューン!の発音になってしまう)ですが、今回は「British Art 1930-」を選択しました。

建物入り口ではQRコードを使用した厳密な入場制限がなされている一方、建物に入ってしまえばどのコースも行けたのでは?というくらい管理があまりなされていませんでした。イギリスらしい…。

 

展示作品の紹介は、中身を細かくというより、ざっとどういう流れの展示がなされていたのかをご紹介します。

 

まず、1930年代の抽象絵画等から始まります。

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写真はヘップワースさんとニコルソンさんご夫妻の作品。個人的には、このご夫妻以外は特筆することが少なめな時代だと思います。1940年代は戦時中の暗めの作品。フランシス・ベーコンの作品は、寄生獣そのものといった趣。英国抽象芸術の巨匠Pasmoreさんは、まだ具象っぽい作品を作成していました。

 

続いての部屋はSt Ives Circa 1959-。そもそもテートって?で4つのうち1つがあると書いたSt Ivesですが、20世紀初頭から英国芸術界の人々が集合した場所です。ちなみに、かなり早い段階で日本民藝界の巨匠・濱田庄司がバーナード・リーチとともに同地に窯を開き、一時製陶を行っています。1959年にSt Ivesに米国抽象表現絵画の巨匠マーク・ロスコが来たぞ~というこのコーナー。ロスコに適う作品は一つもありませんでしたが、英国芸術界の米国との関係でのもがきを感じられました。

 

1960年代は、英国芸術が独歩しだしました。音楽ではビートルズの時期。本ブログとの関係では、初期に33億円ホックニーが落札されたサザビーズオークションの訪問記事を書きましたが、その「スプラッシュ」の兄弟画「A Bigger Splash」にお会い出来ました。英国芸術界に勢いが出てきた時期です。

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「スプラッシュ」の別バージョンがサザビーズで落札されたときの記事はこちら

 

英国美術史的には、このあとグっと盛り上がってYBAsの時期を迎えるのですが、そのあたりは「テート・モダン」の担当。今回の展示は、2つのテーマ展示に繋がります。

 

1つは、英国が生んだ彫刻の世界的巨匠ヘンリー・ムーア。展示室を2部屋どーんと使って多数の作品が展示されています。

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もう一つは、女性アーティストの1960年代~の活躍に焦点を当てた展示。こちらは大変面白くて、正直性別で分ける意味があるのかという気がしなくもない(例えば冒頭のヘップワースは普通に展示されている)ですが、英国もこういう区分での展示が未だ必要な状態なのでしょう。色々に世界を見たり切り取ったりしている作品が密度高く展示されていて(写真を撮り忘れるほど熱中していたので、主な作品はリンクをご覧ください)、このスペースで長い時間を過ごしました。

 

感想は?

今回一番「おおっ」と思ったのは、ミュージアムショップにCLAMPの「xxxHOLiC」が美術書に並んで売られていたこと。大英博物館のマンガ展以来、パリに続いてロンドンでもマンガやアニメの芸術化が進行しているように思います。

ナショナル・ギャラリーに比べると点数が少ない(「British Art 1540-1890」の方は点数は多いが、個人的にはもっさり感じる)ものの、「テート・ブリテン」はその立地もあってか頻繁には来ないので、ゆっくり英国の美術を厳選されたピースで勉強する良い時間でした。

ではまた。