欧州アートログ

ヨーロッパにおける企画展、ギャラリー、アートフェア等のログを淡々と書き記します。

クリスト&ジャンヌ=クロード / ロンドン・マスタバへの軌跡 [Log16]

BBCが過去に放送した「Christo and Jeanne Claude: Monumental Art」(2018)を視聴しました。その模様を淡々と書き記します。

※ 本来は実地訪問した展示等について書き記したいところですが、諸般の事情に伴い、本記事は番組視聴に関する内容となります。

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記事のポイント

  •  「梱包」のイメージが強いご夫婦
  •  プロジェクトに掛かる時間と手間がすごい
  •  人が持つ情熱の強さを思い知る

 

クリスト&ジャンヌ=クロードさんについて

クリストさん(1935~2020)は、ブルガリア生まれ。ブルガリアのアカデミーで勉強されました。19世紀型アカデミーは芸術、建築等が分化されておらず、全てを学ぶ体系だったとのこと。後のプロジェクトへつながる素地を感じます。その後、東側であるプラハ、ウィーン等を経て、1958年にパリにたどり着きます。

ジャンヌ=クロードさん(1935~2009)は、モロッコ生まれ。仏軍人のご家庭で、フランス、スイス、チュニジアで成長されました。1958年10月、パリに来たクリストさんと出会い、1964年9月にお二人でニューヨークへ移り住みます。

現代アートの巨匠であるご夫妻は、ペアのアーティストとして活動されます。クリストさんの発案をもとに、ジャンヌ=クロードさんが膨大な許可取り等を主導するといった役割分担だったようです。

お二人のこれまでの作品で有名なものと言えば、ドイツ連邦議会議事堂を「梱包」したものではないでしょうか。パリのポン・ヌフ梱包茨城とカリフォルニアの傘ニューヨークのセントラルパークにおけるゲートを思い浮かべる方もいらっしゃるかもしれません。

※ リンク先をスマホで見ると、全てトップページに飛んでしまうようです。メニューからRealized Projectsを選択するとご覧いただけます。

 

クリストさんは、2020年夏逝去されました。

 

どんな番組だった?

今回外出制限中に視聴した番組*1は、2018年夏に約3か月だけロンドンのハイドパークに出現した「マスタバ」に至る軌跡を内容とするものです。当時サーペンタイン・ギャラリーでの展示は楽しんだのですが、こちらの番組は知らなかったので、後述のパリ・プロジェクトの前に良い予習となりました。

番組は、お二人のこれまでのプロジェクトを概観する内容を含みます。例えば、先述のドイツ連邦議会議事堂における2週間の「梱包」については、24年にわたる許可取りの苦労にも触れつつ、ノーマン・フォスターさんがその意義についても解説しています。後の彼による改修に繋がったとも。番組には、パフォーマンス型アーティストのマリーナ・アブラモヴィッチさんも登場します。

マスタバ(古代エジプトの墳墓の一種を指す言葉)は、ドラム缶を積み上げた巨大な作品。ハイドパークの池に浮いていました。初期構想から51年。1977年から構想されているアブダビの砂漠におけるマスタバ・プロジェクトを追い越したロンドン・マスタバ*2。許可取りは例外的な短さで、2年で済んだそうです。ドラム缶は、二人がパリにいた頃それらを積み上げて建物に挟まれた通路を封鎖した「作品」を作っている(許可取りできず逮捕されたようです)ように、好まれている表現媒体です。

お二人は、これらのプロジェクトを実現するために必要な億円単位の費用を自費で賄っています。アイディア段階から膨大なスケッチやドローイングを売り、それをプロジェクト実現に充てる。

しかも、番組制作時点57年のキャリアのうち、実現したものは23プロジェクト。47の許可が取れなかったプロジェクトが背後に存在しているという。

 

感想は?

どれだけ時間と金を掛けても実現するかどうかも分からない。でも実現したいという情熱があるから突き進む*3。人の想いの強さを感じる活動です。

なお、この記事を書く途中で気づいたのですが、ロンドン・マスタバはお二人のウェブサイト上「Project」ではなく「Temporary Sculptures」に分類されています(URL上はindoorなので、きっと本件を受けて表記を変えたのだと思われます。)。まだ、マスタバ・プロジェクトという壮大な想いの途上なのでしょう。

今後予定されている大規模プロジェクトとして、パリの凱旋門を梱包しちゃおうというものがあります。当初予定では今月6日~19日と、まさに絶賛開催中のはずでした。 しかし、諸般の事情に伴い9月19日~10月4日へと延期になったとのこと。これもコロナの影響か!と思いきや、鳥さんが営巣する時期を避けたらしいです。お二人のウェブサイトによると、この構想は二人がパリ(1958~1964)にいた1962年からということになっています。半世紀どころではありません。

 

[2020年5月15日追記]

楽しみにしていた凱旋門の梱包ですが、その後の発表によると新型コロナの影響で一年延期だそうです。2021年9月18日~10月3日にリスケされています。

 

なお、ご本人への日本語インタビューは下記のようなものがあります。これらも興味深い内容です。

◆ 2011年のインタビュー(〆の言葉に、芸術家のたどり着く境地を感じます)

◆ 2017年のインタビュー

ではまた。

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*1:通常、日本では視聴できません。VPNの工夫等による視聴は可能のようです。ご自身の判断でお楽しみください。

*2:前者は規模が約40倍と壮大なもの。

*3:許可が取れても情熱がなくなった結果、中止したプロジェクトもある模様