欧州アートログ

ヨーロッパにおける企画展、ギャラリー、アートフェア等のログを淡々と書き記します。

デイヴィッド・ホックニー:The Arrival of Spring, Normandy, 2020 @ロンドン・RA [Log 42]

RAで開催されている「David Hockney: The Arrival of Spring, Normandy, 2020」展に行ってきました。その模様を淡々と書き記します。

f:id:EuroArts:20210716045827j:plain

前回投稿から、約2か月半が経ってしまいました。

この間、イングランドは、ワクチン接種が大いに進む一方、感染者数は増加基調で、6月21日になされるはずだった行動制限解除が7月19日にずれ込む状況です。

感染者数だけでいうと昨冬の厳しい時期を超える勢い(足許約5万人/日!)ですが、入院者&死亡者数は相対的に少なく、英政府は経済を回す方にハンドルをきりました。

 

ホックニーさんについて

デイヴィッド・ホックニーさん(1937~)は、押しも押されもせぬ英国現代美術を代表するお一人。ダミアン・ハーストさんと二大巨頭という感じでしょうか。


アーティストとして早い段階から頭角を現しており、ロイヤル・カレッジ・オブ・アート在学中から名を轟かす存在です。彼の絵画は存命中のアーティストの中でトップ3に入る高額となっており、本ブログ初期にも彼の代表的な作品が出るオークションの模様を投稿しました。


どんな作品があった?

今回の展示は、そんな名声を得たホックニー爺さん(現在84歳)が、2020年2月11日から7月4日までの間にiPadで描き上げた116枚の作品が展示されていました。

彼は、2010年のiPad発売当初からメディウムとしての可能性に大いなる関心を寄せており、早速2012年のRAでの展覧会にiPad作品を出しています。この時のテーマは、ヨークシャーの春。

iPadは、彼の色へのアプローチを「助ける」ものだと言えます。屋外の、陽の光が随時変わる中、一瞬の色彩を捉え即座に表現するのに絵具は少しまどろっこしい。この点、アナログの微妙な調製は失うものの、デジタルは素早く色を調整できます。

展示されている作品は、捉えた印象を強調して描くという点で、ノルマンディー周辺に歴史を持つ印象派を連想させます。

また、同じ形(点の集合)をコピペして色を変えることで草、木の幹、花弁等を表現しており、スーラ等新印象派の点描も想起されました。

写真と絵画との相克の歴史や、ベンヤミンの議論をも思い出しつつ、それらとは別種の表現に関する思考を促してくれる展示でした。

 

感想は?

本展覧会への評論はまちまちで、結構辛口のコメントが多く見受けられます。とある新聞紙面では、「ホックニー展だと知らなければ、小学校の春休みの宿題の展覧会かと思う」と言う趣旨の酷評も見受けました。

しかし、個人的には、既に名声を得ている80歳超えの爺さんが、地位に安住せず新たな取組に挑戦していることに、深い畏敬の念を覚えました。議論は色々あるかもしれませんが、コロナ禍で留まることとなった敷地回りの自然をこんなに美しく、多い日は一日で4作品も描いている。

 

このブログが停滞している間、アートビジネス周りではNFTが凄いことになっていますが、ホックニーさんのこの展覧会の方が、デジタルとアートとの関係として私には分かりやすいなと思いました。

 

ではまた。