欧州アートログ

ヨーロッパにおける企画展、ギャラリー、アートフェア等のログを淡々と書き記します。

コリー・アーケンジェル: Totally Fucked@ロンドン・Lisson Gallery [Log36]

Lisson Gallery (22 Cork St)で開催されている「Cory Arcangel: Totally Fucked」に行ってきました。その模様を淡々と書き記します。

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記事のポイント

  • ゲームアートで有名
  • マリオの魔改造
  • いまが食べごろの作品

 

コリー・アーケンジェルさんについて

コリー・アーケンジェルさん(1978~)は、米国NY生まれのポスト・コンセプチュアルアーティスト*1

同国では、ゲーム・アートの先駆けの一人として有名なアーティストのようです。ゲームに限らず、世界的に知られたアイコンを「弄ぶ」作風が多く、ナ〇キ、アディ〇スといったスポーツブランドを題材にした作品も多く制作しています。

日本での作品展示は、調べた限りでは、2007年に金沢市の姉妹都市にある美術館の収蔵作品紹介という形で21世紀美術館で行われたものと、2011年に「今後のさらなる活躍が期待される作家」としてTARO NASUさんで紹介された(出展作品不明)ぐらいではないかと思います。

 

どんな作品があった?

見てもらったほうが早いので、こちらをどうぞ。

www.youtube.com

 

こちらの0:30~1:21にかけて、ブロックの上に乗ったマリオが右顧左眄している動画がありますが、これの無限ループが展示されていました(貼り付けた動画は、展示作品等を拡張した後年の作品)。

写真のとおり、ギャラリー一杯のスクリーンに。この作品"Totally Fucked"(2003)単騎の展覧会です。

作品は、アーティストがマリオのカセットをハックして作成したもの。いつか死ぬしかない場所で、何か出てくるはずのブロックの上で何も出せずに右往左往しているマリオに、F*ckと言いたくなるほど、イライラするし、不安に駆られます。

宮本さんが見たらどう思うだろうか、想像してしまいます*2

 

ちなみに、展示作品、アーティストのホームページからダウンロードできます

ギャラリー展示作品そのものを作家がウェブで公開しているというのは、初めて見ました*3

 

感想は?

この作品が作られたのは2003年。

米国の様子は不明ですが、日本でいうと、1999年にi-modeやezwebにより世界に先駆け携帯電話がインターネットにつながり、世界で初カメラ付き携帯が京セラにより発売され、2001年には先行者や吉野家コピペがネットで流行、電車男の書き込みが2004年といった時代感。

今では当たり前の装置が生活に入ってきた頃、一般社会に出て行かなかったネット内「流行」がワイドショーネタに成り出した頃ということです。

この時、コリーさんは25歳。

何が言いたいのかというと、現代アートが様々なメディウムを取り込んでいく中、子供の頃遊んでたマリオを面白がって魔改造した感じだろうなと思うわけです。

 

時が流れ、吉野家コピペが現代のネットユーザー達にはネタと通じず炎上してしまったように、それどころか世界最大の大国の国家元首がtwitterで重要政策を発表していたように、17年の時の流れは社会一般のデジタルへの視線・読解を大きく変化させました。

 

ギャラリーのプレスリリースでは、この作品は、テクノロジーが生活を向上させるという妄想への注意書きであるといったことが書かれています。とてもコロナ禍を経験した上では沁みる解説だなと思います。

あと10年したらファミコンマリオをプレイした世代が中高年化するので、この作品のフラストレーションは理解されなくなるのかなと思うと、それもまた面白いです。

制作から17年、今が熟成されて食べごろ・飲み頃、そんな作品だと思いました。

 

ではまた。

*1:wikipediaによる。

*2:蛇足ですが、宮本さんがマリオをプレイしている動画を見つけてしまった。

*3:作品の画像をダウンロードできるってのは、昨年バンクシーも自作を売るページでやっていたが。